2023.7.6
研究支援最先端技術のプレゼンテーションデザイン(NTT先端技術総合研究所様)
高度で複雑な研究を非専門家に分かりやすく伝えるプレゼンテーションをデザインした。
- 課題
- 研究者のプレゼン資料が難しすぎて非専門家の人には理解できず、研究の凄さが伝わらないのを改善したい。
- 施策
- ゴール設定、研究成果の分析、研究者インタビューを通じて研究内容を理解するとともに、ストーリーを再構築してプレゼンテーションとアニメーションにまとめた。
- 成果
- 研究所来訪者向けのデモビデオとして活用され、来館者にわかりやすく研究成果の重要ポイントをアピールできるようになった。
NTT先端技術総合研究所は、多様性を受容する持続可能で安心安全な社会の実現に向けて、情報処理・通信技術、サステナブル技術、人間科学・バイオ技術、およびこれらを支える基礎研究を推進しています。その中でも、光と電子の融合により、新たな価値創造をもたらす先端的なデバイス・材料の研究開発を担当する「NTT先端集積デバイス研究所」は、研究テーマの一つとして、量子コンピュータの一種である光量子コンピュータの研究開発に取り組んでいます。この研究は光と量子コンピュータに関する専門知識を駆使した高度な研究テーマであり、非専門家にはなかなかその凄さが伝わらないという課題がありました。そこで私たちは、非専門家の視点で研究のポイントがわかるプレゼンテーションを、研究者との共創を通じてデザインすることにチャレンジしました。
本プロジェクトは、以下の手順で進めました。
1.ターゲットユーザーおよび目的の明確化
私たちは最初に、プロジェクトのゴールを明確にするワークショップをお客様と実施しました。ワークショップでは、まず研究成果を伝えたいターゲットユーザーを定めました。具体的には、ユーザー候補の中から、メインターゲットとしてプレゼンテーションの機会が多いユーザー、サブターゲットとして研究への影響力が大きいユーザーを選びました。
ユーザーを決めたあと、私たちはプレゼンテーションを通じて彼らに伝えたいことを具体的に表現しました。また、理想とするプレゼンテーションのイメージも言語化しました。
これらの作業を通じて、メンバー間でプロジェクトのゴールイメージを共有しました。
2.研究成果の分析
並行して研究者の方々が、実際に使用されているプレゼンテーション情報を共有いただきました。そしてプレゼンテーション資料を細かい要素に分解して、類似する要素を取りまとめ、プレゼンテーションを構成する要素を明らかにしました。さらに各要素の中から、私たちが理解できない箇所を抽出し、既存論文、文献、プレスリリースなどを調査して理解に努めました。どうしても分からない箇所は研究者に解説いただきました。
正直に言って、高度な研究テーマである量子コンピュータの理解は、一筋縄ではいきませんでした。しかし、研究所の皆様のご協力を得て、調査や分析を一歩一歩積み重ねていくことで、世の中でホットトピックスである量子コンピュータの現状や課題、NTTがなぜ光に取り組んでいるのか、脈々と繋がる研究の厚みなどが、少しずつわかってきました。
そうした分析を経て、私たちは、量子コンピュータ全般の到達点や課題、光量子コンピュータの優位性など、ターゲットユーザーに伝えたい内容を平易なストーリーで描くことができました。ストーリーは研究者に何度も確認いただき、明らかな誤りが含まれていない状態になるまで修正しました。
3.研究者インタビュー
ある程度、光量子コンピュータに関する理解が進んだ段階で、光量子コンピュータに関する最先端の研究に取り組む研究者の皆さまに、プレゼンテーションを実践いただき、さらにインタビューをおこないました。インタビューでは、資料で言語化しきれなかった想いや研究者として伝えたいメッセージ、トップクラスの研究成果の凄さなどをお伺いすることができました。
4.ストーリー構築
ここまでの調査で、私たちは、研究者のプレゼンテーションには理解が困難な箇所が多数含まれており、そしてそれらを非専門家に短時間で正確に理解してもらうことは極めて困難であるという結論に達しました。
そこで私たちは、思い切って難しい要素をそぎ落とし、もっとも伝えたい研究成果のポイントが伝わるように、プレゼンテーションのストーリーを再構築しました。
この過程は非常に困難でした。研究成果を伝えるためには、どうしても専門的な内容に踏み込みたくなります。そうすると非専門家には理解してもらえません。専門的な内容に踏み込まずにどうすれば研究のポイントを伝えられるか。私たちは何度もストーリーを組み直し、徹底的に要素や表現を吟味し、最終的に、非専門家でも研究成果を直感的に理解できるようなストーリーを作り上げました。
そして、完成したストーリーに、最初のワークショップで言語化した、私たちのプレゼンテーションが与えるべきイメージや印象を踏まえたビジュアルデザインを施して、プレゼンテーションを作成しました。
しかし、この段階で、プレゼンテーションだけでは、複雑な光量子コンピュータの動作原理を伝えるのは難しいことがわかってきました。そこで、動きで伝えることができるアニメーションで表現することを考えました。私たちは、光ファイバーを模した線を描いたテーブルの上で、丸めた色紙を光子に見立てて、少しずつ動かしコマ撮りをして、光量子コンピュータの光子の動作をクレイアニメ形式で表現してみました。このペーパープロトタイピングによって、光量子コンピュータの動作原理を理解するために重要な光子の動作がうまく伝わることが確認できたので、最終的には、光ファイバーの中を光子が少しずつ動いていくパラパラマンガ形式のアニメーションを作成しました。
5.プレゼンテーションテスト
私たちは、難しい研究成果を非専門家に短時間で理解してもらうことを目的として、複数のプロセスを経て、プレゼンテーションとアニメーションを作成しました。最後に、実際にその目的を達成できるか確認するために、社内でプレゼンテーションをおこないました。
その結果、短いプレゼンテーションでは、光量子コンピュータの原理を含めてすべてを理解してもらえる状況までは達しませんでしたが、私たちが伝えたかった大切なメッセージは伝わったことが確認できました。
今回、私たちは、非専門家の視点で研究のポイントがわかるプレゼンテーションを、研究者との共創を通じてデザインすることにチャレンジしました。その過程で、最も難しく、最も重要だったのは、輝かしい研究成果の多くの情報の中から、プレゼンテーションの観客の心に、最後に残すべきポイントはなにか、それを選び抜くことでした。
この取り組みを通して、丁寧に資料を分析し、研究者の想いを理解し、伝えるべき情報を徹底的に洗練させ、分かりやすく組み立てなおすことで、どんなに複雑で高度な研究成果でも、非専門家にその重要なポイントを理解してもらえることを確信しました。
今回のチャレンジは、研究所の皆様との共創により実現しました。私たちはこれからも、共創を通じて専門家と非専門家をつなげるお手伝いをしていきます。